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ブログ・コラム設計士が現場で見続けた「日射と断熱の話」
「朝、起きたときに寒い」——長野の冬に家を建てるとき、多くの方がそれをいちばん心配します。ストーブをつけるまでの数分間、布団から出られないあの感覚。
でも、エアコン設定22℃で「厚い布団を使うことなく、快適な冬でした」という声があります。この快適さはどこからくるのか。20年現場を見てきた立場から、できるだけ正直にお伝えします。
目次
「パッシブ(passive)」は「受動的」という意味です。機械や設備に頼らず、建物そのものの力で快適さをつくる設計のことを指します。
ここで多くの方が誤解しているのが、「高性能な設備を入れれば暖かい家になる」という順番です。パッシブ設計では、順番が逆です。
❌ 一般的な考え方プラン決定 → 断熱材を入れる → 足りない分を設備で補う✅ パッシブ設計の考え方太陽の動きを読む → 建物の形・向き・窓を決める → 断熱・気密で熱を閉じ込める → 設備は最小限
「建物の設計で使うエネルギーをそもそも減らす」ことが出発点です。暖房設備はあくまで補助。この順番が正しく守られると、設備への依存が劇的に減ります。
松村デザインでは2011年の施工開始以来、全棟で性能を計測・記録してきました。直近の平均性能はUA値0.33〜0.34(HEAT20 G2水準)、C値平均0.18。毎年改善を積み重ねてきた数字です。


ここからが「性能数値が高い家」と「本当に暖かい家」の分かれ目です。
パッシブ設計の実践で最初に決めるべきことは、断熱材の種類でも窓のグレードでもありません。「建物をどの向きに置くか」です。
冬の太陽は真南の空の低い位置を通ります。午前10時〜午後2時の間に最も多くの熱が室内に差し込む。松村デザインでは敷地の形に合わせるのではなく、建物を意図的に真南へ向けて配置することを設計の大原則にしています。道路が斜めでも、隣地境界が斜めでも、建物だけ真南に向ける——図面上では少し不思議に見えることもありますが、明確な理由があります。
方位のずれが、光熱費に直結する南から15度ずれるだけで日射取得量は約3%落ちます。30度ずれると10%以上の差になります。暖房費に換算すると冬季で数万円規模。すべて設計の段階で決まることです。
さらに重要なのが南面開口部の計画です。大きな窓は熱が逃げやすいと思われがちですが、トリプルガラス+断熱サッシの組み合わせでは「入ってくる日射熱 > 逃げていく熱」の収支にできます。長野の冬は晴れの日が多い——この地域の特性も、パッシブ設計の大きな味方です。
冬の日射取得の話をすると、必ずこの疑問が出ます。実際に、冬のことだけ考えた設計で夏に後悔するケースを現場で見てきました。
冬に活躍した大きな南面の窓が、夏には「熱を呼び込む穴」に変わります。原因は太陽の角度の変化です。冬の太陽は南の低い位置(高度30〜35°前後)を通りますが、夏はほぼ頭上(高度70〜75°前後)を通ります。
この角度の違いを利用するのが「軒(のき)と庇(ひさし)」です適切な出寸法で設計された軒は、夏の高角度の日射を遮り、冬の低角度の日射は室内に通します。この両立を、設備なしで実現できます。
⚠ 「なんとなく深め」では機能しません
軒の出寸法は緯度・窓の高さ・方位角度を計算して決める数値です。設計図上の数値と現場の施工精度、両方が揃って初めて機能します。松村デザインが設計監理まで一貫して関わる理由のひとつは、ここにあります。
「エアコン1台で家中暖かい」を実現するために、松村デザインでは3つの仕組みを組み合わせています。
高性能な暖房機器を後から足しても、建物の基本性能は変わりません。しかし設計の段階で、太陽の動き・断熱・気密・換気を正しい順番で組み合わせれば、設備への依存を最初から最小限にできます。
「朝、起きたときに寒くない」は、特別なことではありません。設計で最初から織り込んでおけば、普通に実現できることです。
高断熱住宅は「熱を逃がさない箱」をつくる概念です。パッシブ設計はさらに一歩踏み込んで、太陽の熱を取り込み、夏は遮蔽し、換気で空気を整える——という設計の順番と総合戦略を指します。
高断熱はパッシブ設計の必要条件ですが、十分条件ではありません。建物の向き・形・開口部計画・軒の出寸法まで含めて初めてパッシブ設計が成立します。断熱材を厚くするだけでは、パッシブ設計とは呼べないのです。
「寒い地域でパッシブ設計は難しいのでは」と思われる方もいます。実際は逆で、長野県北信エリアは冬の晴天日が多く、「冬の日射取得」が活かしやすい地域です。
ただし、そのまま教科書通りに設計すればよいわけではありません。積雪荷重を考慮した軒の構造設計、北信特有の気候に対応した夏の通風計画——地域の条件を熟知した設計者が関わることで、初めてパッシブ設計は本来の力を発揮します。
断熱・気密が不十分な家では、吹き抜けが熱の逃げ道になります。「吹き抜けは寒い」というイメージはここから来ています。
しかしC値0.18前後の高気密・高断熱が確保された建物では、話が変わります。吹き抜けは1階と2階の空気を自然につなぎ、上下の温度差を解消する通り道として機能します。全熱交換型第一種換気・床下エアコンと組み合わせることで、吹き抜けのある家でも1F-2Fの室温差を小さく保てます。性能が伴えば、吹き抜けは寒さの原因ではなく、快適さの仕掛けになるのです。
パッシブ設計やUA値・C値について、もっと具体的なご質問があれば、
松村デザイン建築事務所へお気軽にご相談ください。